はじめに

はじめに

「中国 上海に進出して13億人の市場を狙う」ということが、つい最近まで、流行のように語られてきました。
一方で、日中関係が悪化するにつれて中国でのビジョンが描きにくくなっています。
それでも、中国が世界に与える影響の大きさに変化はありません。

上海は東京から3時間、九州からは1時間程で行ける距離にありますから、日本の延長線上に上海があると感じてしまうのもよくある話です。
距離もそうですが、欧米の最先端技術・ノウハウ・制度を導入されていますから、上海には資本主義の香りがします。
そんな上海を何度か訪問するうちその活気に圧倒され、中国ビジネスの将来性・可能性に魅了されてしまうことがあります。

私の上海進出はつまづきの連続でしたが、転んでも只では起きたくない気持ちで、その都度対応策を考えてきました。
ただ、多くのトラブルの経験も税理士という立場上、さまざまなクライアントにアドバイスするうえで非常に役立つものになってきました。

私の上海進出の経験においては、上海でのビジネスはトラブルの宝庫ですから私にとってトラブルとどう対峙するかが、常に課題でした。
駐在されておられる皆様にも同じ様に頭の痛いことではないかと思います。
おそらく、それは今後上海に進出しようと考えておられる方々にとっても同じだと思います。

中小企業が上海に進出しようとするときに抱えるトラブルの多くは、「外国のことをあまり知らない日本人が先進国を海外旅行」をするのと非常によく似ているからです。

海外旅行でヨーロッパやアメリカなどの先進国に行くときに、外国のことをあまり知らない人は、発展途上国を訪問する時よりも衛生面で警戒がゆるんだりします。

「これほど近代的な国なのだから、すべて安心だろう」と思って水道水を飲むわけです。しかし、日本の感覚で水道水を飲むならば、たいていの国でお腹をこわします。

「水道水が飲めないなんておかしな国だ」

と大きな声でいろんな人に言って、「もう海外なんてこりごりだ」となることもできるでしょう。
確かに、「水道水が飲めないなんておかしな国だ」ということは、日本を基準とすれば正常なことなのかもしれません。

事実、日本と比較して遅れている分野なのかもしれません。

しかし、たいていの場合はその主張は周りの人に受け入れられません。
悪いのは、その国ではなく、知識不足で海外旅行をしたことだからです。

実際のところ、「似ているようで違っている部分」を識別していないその人自身が悪いというのが大方の意見になります。
「違い」を知っている人は元気に海外旅行を楽しめるからです。

毎年、海外旅行行く人はたくさんいます。

この状況は、中小企業の上海進出と非常によく似ています。
「似ているようで違うところ」をはっきり認識しないと海外なので痛い目に合います。

大切なのは、どちらの国のやり方や文化が良いか、どちらが優れているかではなく、「どんな違いがあるのか」を識別しておくことです。

残念なことに、そうした「違い」をわきまえずに、コンサルタントを仕事として行っている人たちも意外と多いものです。
上記の「海外はおかしい」という人のように、なんだかんだで「中国人はおかしい」とコンサルティングを行うわけです。

とはいえ、わたしたちが海外旅行に行くときに必要としているのは、「海外批判をする人」ではありません。

そうではなく、むしろ「日本と海外との違いを説明して気をつけるべき点を気づかせてくれる人」を必要としています。
上海に進出する会社も必要としているのは、「中国を批判するコンサルタント」ではなく、
「中国と日本の違いを分かりやすく説明して、気をつけるべき点を気づかせてくれるコンサルタント」です。

もちろん、経営なので、どれだけ「違い」をわきまえても、さまざまなアクシデントやリスクは生じます。
しかし、「違い」を認識しているならば、知らない人と比べても多くの不要なトラブルを避けることができるようになります。
そして、その違いを楽しみ、かつ、その良い部分を活かすことができるようになったりするものです。

この本は、そうした企業やアドバイスを与える立場の人の一助になればという思いのもとに書くことにしました。
日本におられる皆様には、上海の現実を語っても俄かには信じて頂けないこともあるやもしれません。
とはいえ、日本に日本的経営があるように、中国には中国の経営があります。

会計や税制についても国が違うわけですから違って当然です。
それで、その一片でもお伝えできたら幸いです。
また、私の専門は税務と会計ですから、会計・税務といった視点からも「違い」をわかりやすくお伝えできればと思います。

茂木和夫

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